細川ふみえの思い出

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演劇界「ｗｉｔｈ　ｙｏｕ」めざして　「劇団☆新感線」プロデューサー・細川展裕さん

　新型コロナウイルスは、日本のライブ・エンターテインメント界に深刻な打撃を与えた。人気劇団「劇団☆新感線」の公演企画・制作を担う「ヴィレッヂ」会長で、演劇プロデューサーの細川展裕さんに、この４カ月で失われたもの、そして今後の展望を聞いた。

　■３億円超、払い戻し／グッズ・配信で「共感」つなぐ

　――大規模イベントに対し、２週間の中止・延期、規模縮小の要請が出たのは２月２６日。新感線は、生田斗真さん主演「偽義経冥界歌（にせよしつねめいかいにうたう）」の東京公演中でした。

　「安倍晋三首相が要請した昼過ぎから、私は何人もの演劇関係者に電話しました。夕方になり、大手のカンパニーは公演中止を発表。誰も経験したことのない事態だ、と。直感です。その夜、我々も３月１０日までの中止を発表しました」

　――その３月１０日、政府は１０日間程度の自粛継続を要請。全日程中止の福岡公演と合わせ６８ステージ中４８ステージを断念しました。

　「前売り完売の東京公演は約３億４５００万円分を払い戻し、チケット販売手数料も４千万円かかりました。出演者やスタッフにも、ある程度の報酬をお支払いしました。大赤字です」

　「あの頃は『１、２週間』とか『１０日間程度』といった言葉に振り回されました。例えば、僕たちの東京公演は、１週間あれば７ステージで８７５０人の観客を迎えることができた。１週間と２週間では事業への影響が全く異なる。そういう想像力が、政府の発する言葉には欠けていましたね」

　「興行は原則、チケット収入が全て。演劇の場合、そこから出演料や劇場使用料などを払い、残りを制作会社の人件費や公演準備に回します。扱う興行は数億円規模でも、資本金は数百万円の制作会社もあります。このままでは事業が継続できない状況になりかねません」

　「弊社も危機的な状況です。巨大な自転車操業が、ぽんと止まった感じ。無担保無利子の融資制度などを活用しつつ、グッズ販売や過去の公演動画の有料配信を通して、観客の『共感』をつなぎ、収入を得る道を探っています」

　――相次ぐ公演中止で、スタッフも仕事がなくなりました。

　「演目によりますが、新感線の公演は出演者が約４０人、本番のスタッフは約７０人が必要です。劇場付きのスタッフなども合わせれば、公演中止で約１５０人分の仕事が失われました」　「ぴあ総研の推計では、スポーツも含めた、２０１９年の国内のライブ・エンターテインメント市場の規模は約９千億円。順調にいけば、今年は１兆円近くに届いたでしょう。年商１兆円の会社が、倒産危機に直面しているというのが現状です」

　――傷が癒えない中、公演が再開しています。

　「『動かなくては、しょうがない』との思いからです。観客数が収容数の５０％以内に限られる現在の基準では、興行は赤字です。それでも幕を開ける情熱を持つ人がいて、皆で声を上げるからこそ、基準の再検討にもつながります」

　「一般的に、多くの演劇公演は、観客が８０％入れば成立する前提で予算を組んでいるはずです。そこまで認められれば、だいぶ通常の興行に近づく。ただ、公演時期に感染状況が悪化し、再び基準が厳しくなるリスクもあります」

　――新感線は９、１０月に予定していた公演の中止を、５月に発表しました。

　「発症前も感染の恐れがあると分かり、その時点では、稽古中の安全確保が難しいと考えました。今、改めて、本番に関わる出演者とスタッフを１０人程度に絞った公演を秋に出来ないか模索しています。リモート稽古や出演者の抗体検査などの対策に加え、異なる演目を上演する２チームを作ります。劇場内での接触も絶ち、万一の公演中止も避けたいと考えています」

　――ライブ・エンタメは「密」な空間を前提としてきました。

　「時間と空間を共有する根本は変わらないでしょう。ただ、この４カ月間で、混雑した店を避ける、といった行動変容が起きました。ライブ・エンタメでも、観客が『試しに行ってみる』ことが減り、『どうしても見たい』と思えるコンテンツ力が高いものに集中する可能性を危惧します」

　「『ｗｉｔｈコロナ』という言葉、僕は好きではありません。共存の必要性は分かります。でも、どうすれば人間同士が分断されずに『ｗｉｔｈ　ｙｏｕ』の状態を作ることができるのか。それがライブ・エンタメ界にとっても重要なはずです」