ポーランド、中絶禁止の抗議運動が激化、政権批判強く

【ウィーン=細川倫太郎】ポーランドで、人工妊娠中絶がほぼ全面禁止になる司法判断に対する大規模な抗議運動が激化している。30日は首都ワルシャワで約10万人がデモ行進を繰り広げ、「女性の権利や自由を奪うな」などと訴えた。批判の矛先は強権政治を進める政権与党へ向かう。

同国の憲法裁判所は22日に胎児の先天的な異常を理由とした中絶手術は違憲だとの判断を下した。法制化されれば、性的暴行による妊娠などを除き中絶は禁止となる。同国の合法的な中絶の9割以上は胎児の異常が理由とされる。連日のように中絶禁止への抗議運動が続いている。

ポーランドの右派政権を率いる与党「法と正義」は中絶の関連法の厳格化を主導し、今回の判決を全面的に支持する。30日のデモは法と正義の党首で、最高実力者のカチンスキ氏の自宅に向かって行進した。政府は軍も投入して厳戒態勢を敷くなど、街は物々しい雰囲気に包まれた。デモは他の都市にも広がった。

ドゥダ大統領は30日、命を脅かす異常が胎児にある場合は中絶を認めることを提案し、デモの沈静化を試みた。それでも参加者の怒りは収まらず、警察隊と参加者の衝突も発生した。ポーランドでは10月上旬に新政権が発足したばかりだが、新型コロナウイルスの感染者と死者の急増も重なって早くも試練を迎えた。法と正義の支持率は急速に低下している。

強権政治を進める政権与党は裁判官の人事制度にも介入し、司法の独立を脅かす。2月には裁判官が政府の改革に異を唱えることを禁じる法律を作った。欧州連合（EU）は、同国で法の支配が後退していると深刻な懸念を示す。人権問題に取り組む欧州評議会は今回の憲法裁判所の判決が出た後に、「女性の権利にとって悲しみの日だ」と批判した。

欧州の中でもポーランドは伝統的な価値観を重んじるキリスト教カトリックの影響が強い。しかし、世論調査で多くの国民が中絶については規制を厳しくすることに反対している。毎年、同国の8万～12万人の女性が国外で中絶手術を受けているとの推計もある。

日本経済新聞　2020/10/31 20:09
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65721070R31C20A0FF8000/