細川ふみえ(ふーみん)の思い出

https://special.sankei.com/f/seiron/article/20210218/0001.html

グリーン競争の勝ち組になれるか明星大学教授・細川昌彦

国際秩序は「グリーン」を巡（めぐ）って急展開する様相だ。パリ協定に復帰したバイデン政権の発足がきっかけだ。４月の米国主催の気候変動サミットを皮切りにＧ７サミット、ＣＯＰ２６と重要会議がめじろ押しだ。しかし主戦場はかつてのような各国の温暖化ガスの削減目標を巡る綱引きではない。
≪産業政策の大競争時代≫
今やグリーンを巡って「産業政策の大競争時代」に突入した。欧州連合（ＥＵ）の「欧州グリーンディール」、バイデン政権の「グリーンニューディール政策」、日本の「グリーン成長戦略」。いずれも脱炭素を目指し、産業を大転換して国際競争力を高める狙いだ。水素、蓄電池、カーボンリサイクルなど成長産業に、官民が集中投資して戦略的に育成する。
これらは環境政策ではない。産業政策さらには経済安全保障そのものだ。２１世紀の産業地図を大きく塗り替えるだけでない。例えば電気自動車（ＥＶ）の基幹部品であるリチウムイオン電池は中国に依存し、これを脱却することは地政学的意味合いを持ってくる。
これから繰り広げられる第２幕は、米国、欧州、中国といったビッグプレーヤーによる合従連衡の国際ゲームだ。欧州はバイデン政権に対して昨年１２月に気候変動問題を米欧協力のテーマとして提案している。トランプ政権時に亀裂の入った米欧関係を修復するうえで重要だ。その欧州は同時に日本に対しても水素、洋上風力などで協力のボールも投げている。
またバイデン政権は気候変動問題を中国と協力できる分野としている。中国もバイデン政権に対して秋波を送っている。米中関係打開のカードとして、ＥＶ最大手のテスラなど米国企業を巨大な中国市場を餌にいかに取り込むかの思惑も見え隠れする。
日本も２０５０年カーボンニュートラルを宣言してグリーン成長戦略を打ち出し、カーボンプライシング（炭素の価格付け）導入も検討している。これでやっと国際ゲーム参画の有資格者と見なされる。問題は第２幕で国際的にプレーヤーとして立ち回れるかだ。
≪技術を「育て」、「守る」≫
日本政府は来るバイデン大統領との首脳会談で、日米協力の枠組みを打ち出す方針で、「グリーン」は柱の一つだ。だからといって米国との協力一辺倒であってはいけない。ＥＵとも、場合によっては中国とも協力するからこそ、米国は日本に振り向く。ＥＵのしたたかさを学ぶべきだろう。
その日本に必要なのはまず技術力だ。水素、電池などの戦略産業において他では代替できない自前のキラー技術を有してバーゲニングパワー（交渉力）を持つことが大前提だ。しかし技術力は新たな開発だけでは足りない。技術流出を阻止する「守り」も必要だ。
中国はレアアースのサプライチェーンを上流から下流へと着実に押さえてきている。上流の精錬技術は中国がすでに握っている。ＥＶの基幹部品であるモーターに使う高性能の磁石はかつて日本企業が競争力を持っていた。
しかし今日では世界シェアの大半を中国企業が押さえている。きっかけは日本企業による中国への工場進出だ。気が付けば技術は流出し、中国企業が数年で作れるようになってしまった。次のターゲットはさらに下流のモーターだ。世界最大のＥＶ市場という中国の“磁力”に引き寄せられれば、磁石の二の舞いになりかねない。

≪競争力左右するルール作り≫
日本に必要なのは技術力だけではない。提案力も必要だ。産業の国際競争の土俵づくりのルールを自国の有利に導く提案力があるかが問われる。こうしたゲームチェンジをもたらすルール・メイキングがグリーンの主戦場になる。米欧が手を組んで、日本が蚊帳の外になってはならない。
一つはＥＵが導入しようとしている「国境炭素税」だ。
ＥＵでは温暖化ガスの排出規制が緩い国からの輸入品に課す事実上の関税である国境炭素税を予定している。これはＥＵ域内産業と雇用を守るための政策だ。トランプ政権は猛反発していたが、バイデン政権になって方針転換して、米欧で共同歩調をとることも予想される。念頭にあるのは安い中国製品の流入だ。日本もＷＴＯルールに適合するような国境炭素税を日米欧の共通ルールとして導入することを主体的に提案すべきだ。
もう一つルール・メイキングで欠かせないのが国際標準化だ。日本企業は「技術で勝って、ビジネスで負ける」と言われてきた。国際標準化で後塵（こうじん）を拝したことも一因だ。国際標準を押さえてこそ市場を作り出して量産できるのだ。
グリーン成長戦略でも技術開発だけでは同じ轍（てつ）を踏む。例えば、急速充電や浮体式風力の安全基準などの規格・標準化を押さえることは重要だ。