母ちゃん(享年９２)が死んで、両親とも死んで無職だし晴れて無敵の人になったんだが、なにすればいい？

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ある高校生の納棺　「お着せ替え」を共にして心の整理に

納棺師・「おくりびとのお葬式」代表　木村光希さん
　私は、納棺師をしています。文字通り「故人さまを棺に納める人」ですが、ただ棺の中に納めるのではなく、故人がきちんと身支度した上で旅立てるよう準備する「納棺の儀」を担当します。故人さまのお体を拭き、清める。仏衣にお着せ替えをする。髪を整え、お顔に化粧を施す。すべての身支度を整えたら、棺に納める。納棺師となった主人公の成長を描いた映画「おくりびと」の公開で、広く知られるようになりました。

　これから私が納棺や葬儀を担当させていただいた方々についてご紹介致します。

　まず、バイク事故で亡くなった男子高校生Mさんのケースについてお話しします。10年ほど前のことですが、自宅に入った瞬間の光景はいまも目に焼き付いています。男女問わず、友人5～6人がふとんを囲んで、とめどなく涙を流していたのです。

　ご両親たちが「納棺の時間だから戻って」と促しても、Mさんから離れようとはしませんでした。しばらくしてようやく、私はMさんと向き合うことができました。

　とても体格がいい方でした。バイク事故にしては、お体がきれいだったのを覚えています。傷の大きいところは手当てをしました。

　ただ筋肉が多いせいか、死後硬直がとても強く、腕を曲げるのも一苦労でした。これまで経験したなかで、一番強かったかもしれません。

　「これは手伝ってもらわないと（納棺は）難しいな」という思いとともに、残された人のために、影響を与えられる時間になればいいという思いが、芽生えました。この子たちは、突然のことで何が起きたか、わかっていない。「納棺の儀」を一緒にやることで、気持ちの整理を少しでもしてもらえないかと考えたのです。

　私は、友人たちに話しかけました。

　「すごい筋肉ですね？　けんかとか、強かったんですか？」

　「はい、めっちゃ強かったんですよ、こいつ」

　「筋肉が多いとお体が硬くなってしまうことがあって。僕一人じゃ難しいので、お着せ替えを手伝ってもらえませんか？」

　「もちろん……やります」。最初戸惑った表情をしていた友人たちも、快諾してくれました。

　制服に着替えてもらうのを手伝ってもらいました。友人たちは、汗をにじませながら、一生懸命に仲間が旅立つためのお支度をしていました。制服に袖を通したMさんは、心なしかうれしそうな表情をしていました。

　お着せ替えや化粧が終わり、髪を整えることになりました。僕は車の中にある私用のワックスをとってきて、髪に塗りました。

　「こんな感じですか？」「そうです、そうです」。友人たちの表情が徐々に輝き出しました。

　若い人が亡くなってしまって、残された人も若い。「納棺の儀」という時間のなかで、彼のことが友人たちの記憶に残るようになればいい、と思いました。

　10年たったいまも納棺したことは心に残っているのではないでしょうか。見ただけより、体験した方が、硬さや経験が記憶に残ります。正解はわかりません。でもこのとき、僕はこれが彼の友人たちにできる最善のことだと思ったのです。

分かるな？

無敵のはずなのにヘタれる
なぜなのか