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空港で働きたかった彼女の夢バカにした僕が今思うこと

今から15年以上前、吉本ユータヌキさんは居酒屋でアルバイトをしていた。
当時18歳ではっきりとした夢はなく、なんとなく音楽の専門学校に進学した。
漠然と「音楽で仕事ができればいいな」と思っていた。
バイト先には1歳下の女の子がいて、ある日、将来についての話になった。
見えを張って「バンドマンとして売れたい」といったような覚えがある。
一方、彼女は「夢？地味なんやけど……」と前置きした上で、こう言った。
「空港のチケットカウンターで働きたいの」
意外な答えだったので、すぐこんな風に返してしまった。
「カウンターって！ほんまに地味やん！普通CA（キャビンアテンダント）じゃない？」
自分が華やかな夢を語った手前、相手の夢を地味に感じて言ったのだと思う。
続けて理由も聞いてみたら、こう答えてくれた。
「私はチケット受け取る瞬間が一番ワクワクするの。今から空飛ぶのかーって実感が湧いて」
「笑顔でお見送りしてもらえたのも忘れられないのよね」
その言葉を聞いて、最初に思ったことは「うらやましい」だった。
自分はそんな経験をした記憶がなかったし、何げなく触れ合う職業の魅力に気づける洞察力、想像力、そして優しさを感じたから。
彼女の夢をバカにした自分が恥ずかしくなった。
実は夢だった漫画家
その後、18歳から始めたバンドは8年で解散した。
見えを張って語ったバンドマンの夢は、夢のままで終わってしまった。
27歳で安定した生活を求めてサラリーマンになった矢先、子どもを授かった。
我が子の成長を残す意味で漫画を描き始めたら、編集者の目にとまった。
2017年に集英社から「おもち日和」として出版された。
2年前に会社員を辞めて、現在は漫画に専念している。
ちょうどその頃、小学校の卒業文集で将来の夢について書いたことを思いだした。
文集を引っぱり出してみると、小6だった自分は「ぼくは将来、マンガ家になりたいです」と書いていた。
クラスメートから影響を受けたこと、ストーリー作りが苦手なこと、コンクールで入選を目指していること。
すっかり忘れていたけど、夢がかなっていたんだな。
でも、思い描いていた姿とは、ちょっと違うかな。
インクペンでガリガリと原稿を描き、人気雑誌で連載して単行本を続々出していたはず。
実際は自宅でひとり、腰をトントンとたたきながらiPadで描いているんだから。
寄せられた相談
昨年10月、ツイッターのフォロワーである大学生から、将来の夢について相談が寄せられた。
彼はYouTuberの放送作家になりたいが、親は理解してくれないそうだ。
学校の友だちに話しても、地味だとバカにされたという。
その時、居酒屋でバイトしていた彼女のことを思い出した。
自分が他人の夢をバカにした日のことを。
すぐに当時の出来事を漫画にして、投稿サイト「note」で公開した。
漫画と一緒に、こんな文章も載せた。
◇
世の中いろんな職業があって、当然のように接してるけど、改めて考えてみるとどんな仕事にも魅力があふれてたりする。
でかい木を担いで高い足場をスルスル歩く大工。
厨房（ちゅうぼう）で炎をあげてフライパンを振るコック。
毎日笑顔で子どもを受け入れてくれる保育士。
絶対先生の方が大変なのに、毎日笑顔であいさつしてくれる。
これも魅力の一つ。ビールをケースで渡したいぐらい。ほんと。
そうそう、家事をしてくれて、仕事や学校から帰ってくる家族のためにご飯を作って待ってくれている専業主婦（夫）にも魅力がある。
どんな仕事にも魅力はあるし、それを理解できる人できない人がいるだけで、バカにする人なんて放っておけばいい（理解してもらえるのが理想だけどね）。
その魅力に気づけた僕がすごい！私すごい！って思いながら、次は自分の魅力に気づいてくれる人に出会う時を楽しみにするといいんじゃないかな。
もっと人の夢を聞いて、いろんな職業の魅力について知りたいと思った。
放送作家になれますように。
もしも話せたら
今年5月、その時に描いた漫画を、今度はツイッターで紹介してみた。
すると、「自分も気をつけます」「気づけたユータヌキさんがすごい」など、多くの反響が寄せられた。

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